二胡の新しい練習方法を考えてみる~ピアノ経験者向け~

sinya

2018年05月23日 22:51

【sinyaが開発!弾く脳トレ!よなおしギター】


以前の記事で、私が二胡の練習を始めた経緯をご説明しました。

【二胡を弾いて気が付いたよ!⇒】二胡を練習して分かったこと~度数で音楽理論を学ぶことの利点~


その記事にも書いたのですが、私より早く始めた妻は、最初に習うD調の曲は比較的スムーズに進んだにもかかわらず、G調で大苦戦しています。

今回の記事では、なぜ妻がG調で大苦戦しているのか、その理由を解明し、より効率の良い二胡の練習方法を考えてみたいと思います。


【二胡が守り続けていること】


歴史が非常に深い二胡は、古くから脈々と受け継がれている特徴があります。その内、今回の記事に関連する2つの特徴を挙げてみましょう。


1、糸巻がシンプル

私が二胡を初めて見た時、その構造で一番驚いたのが『糸巻』です。

二胡の糸巻は木の棒です。その棒が『棹(さお)』、つまりギターでいうネック部分に刺さっていて、そこに直に弦が巻いてあるんです。

言い方は悪いですが、『ずいぶん乱暴な造りだな~』と思いました。




この仕組みで困るのは『微妙なチューニングができないこと』と『音が狂いやすいこと』です。


2、チューニングが『レとラ』

その糸巻でチューニングされる音は、低い方の内弦が『レ』、高い方の外弦が『ラ』です。

このチューニング方法がいつ確立されたかは定かではありませんが、『ラ(A)』の音が基準になる方法は、やはり歴史のある擦弦楽器のバイオリンにも共通しています。

ただし、バイオリンと大きく違うのが練習方法。

二胡は、このチューニングで『移動ド』の考え方で練習を行います。

この『移動ド』方式での練習方法こそ、妻が二胡の習得に苦戦している要因ではないかと、私は考えています。


【『固定ド』と『移動ド』って何が違うの?と思った方はこちら⇒】『固定ド』と『移動ド』の違いについて~日本のピアノ学習の失敗~


【楽器経験者の頭の中】


妻は、幼いころから中学生になるまでピアノを習っていました。その為、五線譜は読めますし、音感も良い方です。

日本でピアノを習う場合、ほとんどが『固定ド』の考え方で教えられ練習方法もその考えに乗っ取っています。

それでも妻は、二胡での慣れない『移動ド』方式の練習で、D調の演奏をスムーズにこなしました。ところが......

G調になると途端に大混乱!

そんな妻の様子をじっくり観察した結果、楽器経験者(ここではピアノ経験者)が二胡で特定の音を出すときの頭の中が垣間見えたんです。

それではここで、妻の練習の様子と頭の中を見てみましょう。


二胡で最初に習うのは『D調』です。そしてその方法は『移動ド』です。その為、最初の数ヶ月は『レと聞こえる音をド』と徹底して意識改革していきます。つまり....

レ・ミ・#ファ・ソ・ラ・シ・#ド・レ

と聞こえる音に対して

ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド

と紐づけしていく作業です。これは、音感のある人にとっては相当に意識の改革が必要な作業で、かなり苦労すると思います。


二胡の譜面『二胡譜』では音が全て数字で表され、その数字は『度数』です。ここでも楽器経験者は戸惑います。

ピアノでももちろん、『音程(インターバル)』の勉強として『度数』を習うことはあるでしょう。ただ、ピアニストはそれを響きとしてとらえる場合が多く、さらに五線譜に数字として度数が表記されることはありません。

つまり、二胡譜の『度数で音をあらわす』という概念を頭で理解することがなかなか難しく、最終的には『ドが1』と紐づけしていくことになります。するとどうなるか....

『レと鳴っている音はドで1』

と、常に1つの音に対して3つの意味を持たせて演奏することになります。


それでもD調の曲は指の動かし方が分かりやすいので、弓で音を出すことさえできれば曲が演奏できます。

ただ、D調の練習を数ヶ月したあと今度はG調の練習に移ります。その時の妻の頭の中はこうなります......

これからは『ソがド』になり『ソが1』になるんだけど『ドが1』でもある。G調のスケールは耳で聞くと『ソの音』から始まるんだけど、押さえる場所はD調の練習で『ファ』だと教えられた場所で、さらにD調の楽譜では『4』と書いてあった場所。でもG調ではそこが『ド』になり楽譜では『1』と表記されるけど鳴らす音は『ソ』だ......

じゃあ、G調の楽譜に『5』と書いてあったらどこを押さえて何の音を出せばよいの?

いかがでしょう。こうやって考える必要があるとするなら、これはスゴク大変なことだと思うんです。難解ですし、これでは混乱して当たり前ですよね。書いてる私も混乱します。


【G調で混乱しない方法】


この楽器経験者の混乱を解決する方法は、恐らく2つしかありません。


1、徹底して『移動ド』方式の練習を行なう方法

つまり、今度は『ソと聞こえる音をドで1とする』と自分を洗脳するように練習し、さらに『度数』の概念を徹底して学ぶという方法です。


2、二胡を『固定ド』の楽器として考える方法

つまり、ピアノと同じような感覚で弾けるようにするんですね。

もしかすると、楽器経験者が二胡に取り組むと、最終的にはこの方法に行きつくのかもしれません。二胡譜ではなくて五線譜を見ながら二胡を弾いている演奏者は『固定ド』の考え方で演奏していると考えてよいでしょう。


上記の1か2ができれば、二胡はどんな調でも混乱なく演奏できます

ただどちらも、その域に達するまでには相当の時間がかかるでしょう。それまでモチベーションを保つのもなかなか難しいと思います。

つまり考えなければならないのは、二胡を始めたばかりの楽器経験者にとって混乱のない練習方法です。


【『固定ド』の概念で『移動ド』方式の練習をする】


何年もかけて体に染み込んだ常識を変えることや、新しい概念を学び身に付けることは時間と労力が相当に必要となります。

楽器経験者は『固定ド』が体に染み込んでいます。でも、二胡の一般的な習得方法は『移動ド』という新しい概念です。

それなら、楽器経験者が二胡をスムーズに習得するためには

『固定ド』の概念を持ったまま『移動ド』方式の練習に取り組める方法

を考えるしかありません。

そんな方法があるのでしょうか?

楽器経験者、ここではピアノの経験者と考えると、ピアノはハ長調の楽器です。

つまり彼らは、幼いころからハ長調を元に作られた楽器と線譜による練習を何年も続けてきました。

そういった楽器経験者が、始めから二胡の『移動ド』方式の練習にスムーズに取り組める方法は1つしかありません。それは......


二胡のハ長調化


です。つまり.....

内弦を『ド』 外弦を『ソ』

に合わせてしまうんです。

ハ長調化したC調の二胡を使えば、二胡の一般的な『移動ド』方式の練習方法でも全く混乱がありません。何故なら、「ドレミを弾きましょう!」と言われたらドレミの音を弾けばよいからです。

音感の良い『固定ド』が体に染みついた楽器経験者にとっては、『ドレミと言われたらドレミを弾く』という自分の常識が通用するわけです。

そうやって、一般的な二胡の『移動ド』方式の練習で、弦のどこを押さえれば何の音が出るのかを手と耳でスムーズに覚えていくことが出来るでしょう。これも、耳が使える楽器経験者には有利ですね。

C調の練習で音の位置を覚え曲が弾けるようになったら、もう五線譜を使ってG調かF調、つまり『#が1つ』あるいは『♭が1つ』の曲を練習し、弦楽器での半音の感覚を覚えていきます。

五線譜でそれが出来てくれば、もう『移動ド』とも『度数』ともお別れです。

得意の五線譜を使ってバリバリ練習をしていくことが出来るでしょう。


【新しい練習方法での頭の中】


では、このC調の二胡と五線譜を使って特定の音を出すときの妻(ピアノ経験者)の頭の中を考えてみます。恐らく、以下のようになります。


譜面に『レ』と表記されていたので『レ』を弾こう。


これだけです。D調の二胡と二胡譜を使ってG調に取り組むときの妻の頭の中と比べてあまりにもシンプルですが、実際、ピアノと五線譜を使って特定の音を出すときと同じで、これ以上のことは考えません。

いかがでしょう、これなら混乱することはないですよね。


【C調二胡の問題点】


とてもシンプルで、楽器経験者にとっては非常に理にかなった方法に思えるC調の二胡を使った練習ですが、はたして問題はないのでしょうか?

1つ考えられるのは、他の二胡との合奏でしょうか。

一般的なD調にチューニングされた二胡と、C調(ドとソ)にチューニングされた二胡で合奏は出来るのか?という問題ですね。

これは全く問題ないです。ピアノと五線譜でさまざまな調が演奏できるのと同じ原理ですね。

例えば、D調の曲を合奏するとき、C調の二胡ではKeyDの五線譜、つまり『ファとドに#が付いた五線譜』を見ながら演奏すればよいだけです。

そもそも、楽器経験者は五線譜に強いわけですから、それまでにどこを押さえれば何の音が出るのかをある程度把握できていれば問題ありません。

ちなみに、C調の二胡でD調スケールを弾く時の指の使い方は以下のようになります。




それほど難しくありませんね。


【C調二胡の利点】


ここでは、C調の二胡でD調の曲を演奏するときの利点です。


1、D調の主音『D(レ)』をビブラートできる

ギターと同じで二胡もビブラートが欠かせません。

二胡のビブラートはギターと同じように弦を押さえている指を震わせて行います。つまり、弦を指で押さえないと出来ません(私の知る限りですが)。

一般的な二胡ではD調の主音『D(レ)』は、内弦の開放を使います。つまり、指で押さえません。その為、曲の最後の音になることが多い『レ』の音はビブラートが出来ないんですね。

これがC調の二胡だと『レ』を指で押さえるのでビブラートが可能になります。


2、D調の主音『レ』の音程の微調整が出来る

二胡は先にも書いたように、糸巻の作りがいささか乱暴です。演奏中に音が狂ってしまうこともあると聞きます。

二胡の演奏中に音程を微調整する場合、弦を押さえている指を前後に動かしたり押し込んだりします。

ただ、肝心のD調の主音『レ』は指で押さえませんから、演奏中に微調整するのはほぼ不可能です。

これがC調の二胡だと『レ』を指で押さえますから演奏中の微調整も容易にできるわけです。


【C調二胡は定着するか?】


私自身は、C調の二胡での練習方法は楽器経験者、あるいは楽器未経験者にとっても救世主となり得ると思っています。それはつまり......

二胡の普及にもつながる

ただこれが定着するか?と聞かれたら、答えは『無理でしょう』と答えるしかありません。

これは二胡に限ったことではないんですね。楽器は、歴史があればあるほど『革新』が許されません。

ギターも歴史がある楽器ですが、アコースティックギターやエレキギターなどはまだまだ二胡に比べれば歴史の浅い楽器と言えます。

それでも、よなおしギターを『邪道』と考える人は多いです。それがギター人口の増加に貢献すると分かっていてもです。

こういった考え方は、指導する側、つまりベテランの演奏家にもあるんですが、実は教わる初心者側の方が『革新』を認めないという意識が強い場合も多いんです。

今、C調二胡の検証をする為、私の二胡は『ドとソ』に合わせてあります。

本来の二胡のチューニングから相当に離れているなら問題もあると思いますが、C調の二胡は本来の二胡の弦をそれぞれ1音ずつ下げただけです。

弾いていても聞いていてもほぼ違和感はありません。すぐに慣れます。

で、当然、楽器経験者の妻に「C調にするといいかも!」と話しましたが、全く興味を示しません。妻のために考えたにもかかわらずです。

これはよくあることですが、初心者だからこその頑なな拘りがあるんですね。『二胡を習得したい!』と始めたので本来の二胡とはちょっと違うだけで『異物扱い』になる訳です。

決してその拘りが悪いと言っているわけではありませんし、妻は先生からレッスンを受けていますから、その通りに練習をするのは当たり前のことです。

ただ、全く興味を示さないというのも問題があると思うんですね。

プロを目指すならいざ知らず、趣味として楽しむために始めたことを『楽器の仕様』という表面上の形に拘りすぎてしまったがために結局は諦めてしまうという例を、私はたくさん見てきました。

よなおしギターは、そういった人たちを見てきたからこそ生まれたんです。

それでも、「よなおしギターを弾くことで挫折なく一般的なギターに移行できる!」と、どんなに解説しても『今は普通のギターを弾きたい』と切望する初心者には通じません。

そして、一般的なギターが今すぐ弾けるわけがないので、やっぱりそうやって拘る方の多くが挫折してしまうんですね。

『拘りが強い』ことは最大の武器になる可能性と最大の足かせになる可能性を秘めています。


難しい楽器は、その習得方法をじっくり考えるべきです。そして、自分に合った練習方法を選ぶことである程度はスムーズな習得が可能となります。

今回は『楽器経験者向けの二胡の新しい練習方法』でしたが、次回は『楽器未経験者向けの二胡の新しい練習方法』を考えてみたいと思います。



☆二胡を弾いてみた!二胡関連記事
二胡を練習して分かったこと~度数で音楽理論を学ぶことの利点~
二胡の新しい練習方法を考えてみる~ピアノ経験者向け~
『固定ド』と『移動ド』の違いについて~日本のピアノ学習の失敗~
「押さえる場所が分からない!」を解決~二胡の効率的な練習方法を考える1~
二胡の練習用ツール『二胡棒』を作ろう!~二胡の効率的な練習方法2
二胡棒の驚くべき効果!~音程が合わない!を解決する方法~
あなたに合ったベストな千斤の高さを決めよう!~千斤高という新しい定義~
究極の千斤の位置の決め方~もう曖昧な弦長の決め方は止めよう!~










【初心者・独学ギターリストの強い味方】とにかくギターを弾きたいという方へおすすめの教材です!




関連記事